本日は建築紹介のコーナー。これから毎週月曜日は建築旅行好きの私が、専門家目線も加えつつ建築紹介記事を書いていきたいと思います。
本日紹介するのは、築地にある旧電通テック本社ビルです。
一見殺風景なビルですが、壮大な都市構想と当時流行したデザインを感じることができる建築です。
壮大な都市構想の名残
梁の端部が切断されたかのように表現されている。無限に拡張し続けるかのようなデザイン。
旧電通テック本社ビルは1967年に竣工し、2002年に汐留の電通本社ビルが完成するまで大手広告代理店の電通が使っておりました。設計者は「世界のタンゲ」と言われた世界的建築家の丹下健三。
実は丹下健三と電通の吉田社長はこの本社ビルを中心とする「築地電通第一次計画」と言う壮大な都市計画を構想していたのです。
築地一体に複数の超高層ビルを建てそれらを空中回廊でつなぐ計画でしたが、吉田社長の強いとともに頓挫してしまいました。
この途中で切断されたかのような梁のデザインは、当時流行していた建築を生物のように増殖・変化させる「メタボリズム」という考えを取り入れています。当時の都市構想の名残を如実に表しているものなのです。
力強さを感じる造形
外観を見てみると、設計者の丹下健三の特徴でもある力強い造形が存分に発揮されたデザインです。現在ではガラスを全面に押し出し、軽やかに見せるビルが主流となっているので(このビルもガラス張りではありますが)このように力強く主張するビルは珍しくなっております。
会社の顔としては、少し権威的でとっつきにくさがあるかもしれませんね…。
駐車場が1階にあり、人を寄せ付けにくいことも手伝っているのかもしれません。地下駐車場は当時技術としてはあったようですが、予算の問題でしょうか。
システマチックな構成
よくみると柱に継ぎ目があり、細かく分割できそうになっております。
このビルは「メタボリズム」の考えを表現しているので、同じパーツを連続させて構成されており、非常にシステマチックな作りになっております。古いパーツだけ取り替えることも、同じパーツで増殖させていくことも可能、というわけです。しかし実際には、交換は非常に大掛かりな作業になってしまい大変で、「メタボリズム」はあまり現実的ではありませんでした。
2021年4月から解体工事が始まる
実はこの建物を撮影したのは3月なのですが、4月から仮囲いされ、解体工事が始まっております。
建物は昔よりも広い面積が求められるようになっており、現在からするとこの時代のビルや市庁舎は手狭だという理由で壊されることが多いです。老朽化や耐震性能の問題もあります。
このような昔の建築は当時の考えや流行を伝えてくれる貴重な遺産ですが、現在の使われ方や時代が求める性能を満たしていないのも事実。活用方法が見つかりにくいものは、こうして人知れず無くなっていきます。
以上、皆さんの暮らしの中の気づきになれば幸いです。
もし都市構想が実現していれば、現在の築地は空中回廊が縦横無尽に横断する、最近の渋谷のような状態になっていたのかもしれませんね。
それでは。